細菌性肺炎に抗菌薬(抗生物質)投与、当然の治療です。聴診、レントゲンや臨床症状で肺炎の診断します。診断の次は重症度を判断。通院で治療するか、入院が必要か判断します。そして、抗菌薬(抗生物質)の投与です。
2017年の日本呼吸器学会が刊行した、成人肺炎診療ガイドライン2017に「治療しない」選択肢が盛り込まれました。驚きの内容ですが、ごくごく限られた状況下での話ですので、その点、ご留意ください
目次
■肺炎診断の第一歩、重症度診断
肺炎と診断、その次にすることは重症度診断です。
20年程前は肺炎と診断したら、即入院治療でした。その後医療が発達して、入院せずに治せる肺炎もあることがわかってきました。
若い方の軽症の肺炎などは通院で治療できます。逆に高齢者、呼吸状態が芳しくないときは即入院、場合によってはICU(集中治療室)での治療が必要です。
時代とともに診断、治療ともに医学が発達、治療方針が変遷してきています。
参考記事
●肺炎の診断、つぎにするべきは重症度判定。日本呼吸器学会のA-DROPを参考に通院治療・入院必要を判断
■肺炎と診断した後、抗菌薬(抗生物質)を投与しない選択がガイドラインに盛り込まれた
肺炎を治療。当然です。
ところが、肺炎と診断した後、抗菌薬(抗生物質)を投与しない選択もありうるのです。
ごくごく限られた状況下での話ですので、その点、ご留意ください。
その限られた選択肢とは癌末期の肺炎や繰り返す誤嚥性肺炎などです。
寝たきり状態であったり、癌末期などの免疫、全身状態が呈かした「結果」として合併する肺炎などの場合です。
抗菌薬投与で肺炎が一旦、軽快しても、全身状態が芳しくないため肺炎を繰り返します。そのような場合、抗菌薬投与は一種の延命治療に相当するのではないかということです。終末期の心肺蘇生、点滴加療と同じで、抗菌薬投与するかしないかは、個人の考え方意志、QOLを尊重した結果で判断する選択枝がガイドラインに盛り込まれました。
ケアを中心とする抗菌薬を投与しないという選択肢です。
(Citation:成人肺炎診療ガイドライン2017一般社団法人日本呼吸器学会)
■認知症患者さんでの、抗菌薬投与、肺炎、寿命との関連
これまでの日本では、社会通念上、肺炎と診断された際に抗菌薬を「投与しない」という選択枝はありませんでした。
重度の認知症患者さんに抗菌薬を投与する方がよいのか、しない方がよいか、議論になることは日本ではかってなかったのです。
抗菌薬を投与した方がよいのか、寿命が延びるか、息苦しさなどの自覚症状やOQLは改善するのか、根拠となるデータは日本には存在しません。
一方、アメリカでは、個人の意志、QOLを重んじることを最優先事項とする社会です。
驚くべきアメリカからの報告があります。重度の認知症患者さんに、抗菌薬を投与した、抗菌薬を投与しない場合を検討した、前向きに経過をフォローしたコホートがあります。
結果は抗菌薬を投与することで生命予後は改善します。重度の認知症が背景にあるのでどうしても肺炎を繰り返してしまいます。それでも抗菌薬を投与した方が寿命は延びるのです。
このコホートには、その続きの話があり、患者さん自身の苦痛の度合いをEnd-of-Life inDementia scaleで調べています。
抗菌薬を投与しても患者さんのQOL(苦痛)は改善しない結果でした。
重度の認知症患者さんにとって、抗菌薬投与が延命措置に相当するとの解釈も出来る結果です。この論文を読んで複雑な気分になります。
従来日本の社会通念上からは、患者さんの状態に関係なく肺炎に抗菌薬を投与するのが当然でした。
しかし、癌末期の肺炎や繰り返す誤嚥性肺炎には、個人の考え方意志、QOLを尊重した、ケアを中心とする抗菌薬を投与しないという選択肢も考える必要がある時代に遅ればせながらなってきました。
(Citation: Givens JL et al. Survival and comfort after treatment of pneumonia in advanced dementia.Arch Intern Med. 2010 Jul 12;170(13):1102-7)