人食いバクテリアといわれる『ビブリオ・バルニフィカス』についてのお話です。(2021.9.2加筆)
■ニュース『タトゥー彫って海で遊泳、細菌感染で死亡 米男性』
2017年のCNN.co.jpニュースに『タトゥー彫って海で遊泳、細菌感染で死亡 米男性』目を引くニュースがありました。
この手のキャッチーなタイトルは、大概「釣り目的」クリックさせるために、大袈裟なことが多いんだよね、と思いながらも読んでしまいました。
(Citation: https://www.cnn.co.jp/usa/35102258.html)
タトゥー彫って5日目に海で泳いだ。海で泳いだ3日後、発熱、両足の痛みで入院。皮膚科黒ずみ変色、水疱形成、敗血症ショック。人工呼吸器を装着、強力な抗生剤投与。最初の入院から2ヶ月後に永眠。
タトゥー彫って、生傷ある段階で海に入って細菌感染、それが命取りになりました。
タトゥー彫ったあとの傷のがどれぐらいで治るか、全く経験ないので知りませんが、タトゥー彫った程度の傷口からばい菌が入って、致命傷になることあるのだろうか。記事を読んでの最初の印象です。
タトゥーを彫った面積はわかりませんが、もしタトゥーを彫った程度の傷で致命傷になるのであれば、少しでもけがをしていたら、怖くて海に入れないことになります。
■原因は『ビブリオ・バルニフィカス』
起因菌は『ビブリオ・バルニフィカス』と書かれています。たとえ傷があっても健康な人がビブリオ・バルニフィカスによる敗血症を起こすのだろうか。
と思いながら記事をよくよむと、「慢性的な肝疾患を患っていた」とあります。
ニュース的には『タトゥーを彫って海に入って感染』がキャッチーではあるのですが、目を向けるべきは『背景に肝疾患をもっていること』です。
肝硬変の患者さんに、塩分をひかえる事や、適切な蛋白質の量など、食事指導をおこないます。さらに、私は肝硬変の患者さんには、生魚や生ガキなどをひかえるようにも伝えています。これは、極めて発症頻度は低いのですが、ひとたび起きると極めて致死率の高い『ビブリオ・バルニフィカス』による感染症をさけるためです。『ビブリオ・バルニフィカス』壊死性筋膜炎や敗血症をひき起こします。
■『ビブリオ・バルニフィカス』は肝硬変があると重篤化
『ビブリオ・バルニフィカス』は健康な人に問題になることはなく、肝硬変や免疫不全が背景にあると重篤な感染を起こします。
肝硬変の方が、生ガキを食べて『ビブリオ・バルニフィカス』に感染という報告が多いのが特徴です。
なぜ、肝硬変の人が感染するかは、『ビブリオ・バルニフィカス』は汚染食物と一緒に腸管から吸収、門脈を通って体に入る、健康な人なら肝臓でトラップされ解毒され問題ないが、肝硬変があると、シャントとよばれる肝臓を通り抜けてしまう経路があり、シャントを通して全身に広がってしまうのが原因と思われます。
このCNNニュースの、タトゥーを彫った方も慢性な肝疾患を患っていたようです。
CNN.co.jpには飲酒量の記載がないので、CNNのオリジナル記事を読むと飲酒量が書かれていました。
“To make matters worse, the man had chronic liver disease from drinking six 12-ounce beers a day.”(Citation: CNN health. Man dies after swimming with new tattoo. https://edition.cnn.com/2017/06/02/health/tattoo-infected-sepsis-death-vibrio-study/index.html)
12オンスビールを1日6本。
1オンスは約29.6cc。12-ounce beersはビール350mlに相当。缶ビール1日6本、
毎日ビールを2リットルほど飲んでいたようです。結構な量です。
この方、アルコール性肝障害がなければ、タトゥー彫った後に海で泳いでも、不幸な転帰となるのは免れることができたかもしれないと想像します。
CCNで報道されたBMJ誌ケースレポートからの教訓として、肝障害があれば『ビブリオ・バルニフィカス』は皮膚からでも感染する。
私は『ビブリオ・バルニフィカス』の主な感染は、生ガキなどを食べて、消化管を介する感染経路の認識でした。この症例報告を読んで皮膚からの感染経路もあり得ることを知り驚いております。
(Citation: Hendren N et al. Vibrio vulnificus septic shock due to a contaminated tattoo. BMJ Case Rep. 2017 May 27;2017)
肝硬変の患者さんには、引き続き、生魚、生ガキなどの食事を避けるように食事指導徹底いたします。
■『ビブリオ・バルニフィカス』健常時には急性胃腸炎の症状
肝硬変や免疫が低下する基礎疾患をもつ方で『ビブリオ・バルニフィカス』は壊死性筋膜炎という重篤な病気を引き起こします。
一方、健常な基礎疾患のない方では、急性胃腸炎を引き起こす程度の症状のことがほとんどです。生や調理が不十分な魚や貝を食べることによる食中毒です。症状は、嘔吐、下痢、腹痛などです。
九州地方で診療されている先生から、生の「シャク」を食べる風習がある地域ではよくある食中毒の原因菌であるという貴重な経験談を教えていただきました。
■まとめ