鶏肉の生食は危険!カンピロバクター腸炎とギランバレー症候群
- heiwamed0002team
- 2021年8月25日
- 読了時間: 5分
更新日:5月14日

「風邪ひいたぐらいで病院行ったことないのですが、お腹が痛くて、痛くて、我慢できず来ました」
ぐったりとして、発熱、腹痛、下痢で学生さんが来院。普段元気にすごしている若い方の、発熱、腹痛、下痢、まず確認するべきことは、過去数日以内に何か生もの食べていないかどうかです。
数日前にさかのぼり、何か火の通っていないものを食べてたか聞くと「そういえば、焼き鳥屋で生の鶏モモを食べました」とのこと。
典型的な、カンピロバクター腸炎を疑う経過です。
カンピロバクター食中毒
カンピロバクター食中毒の主な症状は、下痢、腹痛、および発熱です。38度を超える高熱もしばしばみられます。水みたいな下痢ですが、時として粘液や血便となることもあります。
潜伏期間は2-5日です。長くても潜伏期間は1週間ほどです。カンピロバクターに限らず、食中毒が疑わしいときには、1週間前までさかのぼって食事内容を確認します。火の通っていない牛肉、鶏肉、魚介類など疑わしい食材をチェックします。
鮮度がよければ鶏肉を生で食べでも大丈夫でしょうか?
鮮度がよくても、鶏肉は必ず加熱しましょう。カンピロバクターは食品の中で増えることはないことが確認されています。言い換えると、鮮度が良いからカンピロバクターが大丈夫だというわけではありません。
鶏肉のカンピロバクター汚染率は50%前後の報告もあるぐらいです。鶏肉は生でたべるものでは「ない」と知っておいてください。、カンピロバクターは十分な加熱調理で防げますので、とにかく鶏肉は火を通すことです。
カンピロバクターに汚染した食品は味や見た目がかわりますか?
味やにおいは変わりません。魚やお肉が腐るのとは全く異なります。カンピロバクターに汚染している食品は、味やにおい、見た目も変化しません。見た目では判断出来ませんので、とにかく鶏肉は十分な加熱調理です。
カンピロバクターの恐い合併症、ギランバレー症候群
発熱、腹痛、症状は激しいのですが、カンピロバクター腸炎は自然に治ることが多く、下痢で失う水分補給が治療の中心です。重症の場合はエリスロマイシン系抗生物質やニューキノロン系抗生物質を使うことがあります。敗血症や重症化しなければ、カンピロバクター腸炎はそれほど恐ろしい病気ではありません。しかし、恐ろしいのはカンピロバクター腸炎の合併症です。頻度は低いのですが、手足全身の力が入らなくなるギランバレー症候群を合併することがあります。
ギランバレー症候群とは
ギラン・バレー症候群(Guillain-Barré Syndrome、以下GBS)は、自己免疫反応によって末梢神経が障害される稀な疾患です。免疫系が誤って自己の末梢神経を攻撃することで発症します。これにより、神経の伝導が障害され、筋力低下や感覚異常が生じます。発症率は年間10万人あたり1〜2人とされ、男女比では男性にやや多く見られます。年齢層に関係なく発症する可能性がありますが、平均発症年齢は39歳と報告されています 。
ギランバレー症候群の原因
明確な原因は不明ですが、多くの場合、発症前に感染症が認められます。特に、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)による胃腸炎や、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バーウイルスなどのウイルス感染が関与しているとされています 。免疫系がこれらの病原体に反応する際、末梢神経の構成成分と類似した抗原に対しても抗体を産生し、結果として自己の神経を攻撃する「分子模倣」が発症のメカニズムと考えられています。
ギランバレー症候群の症状
初期症状は、手足のしびれや筋力低下から始まります。これらの症状は左右対称に現れ、数日から数週間で急速に進行します。重症例では、呼吸筋の麻痺により呼吸不全を起こすこともあります。また、自律神経系が障害されると、血圧の変動や不整脈などの症状が現れることがあります 。症状のピークに達した後、数週間から数ヶ月かけて徐々に回復するのが一般的です。ただし、回復の程度や期間は個人差があります。
ギランバレー症候群の治療法
免疫療法と支持療法が中心となります。免疫療法としては、血漿交換療法(プラズマフェレシス)や静脈内免疫グロブリン療法(IVIG)が有効とされています。これらの治療は、発症から早期に開始することで、症状の進行を抑え、回復を促進する効果があります。支持療法としては、呼吸管理やリハビリテーションが重要です。呼吸筋の麻痺がある場合は、人工呼吸器の使用が必要となることがあります。また、長期的なリハビリテーションにより、筋力の回復や日常生活への復帰を目指します。
カンピロバクター感染とギランバレー症候群の関係
アメリカではギランバレー症候群の40%がカンピロバクター感染が原因といわています。カンピロバクター腸炎の0.1%にギランバレー症候群が合併です。0.1%と聞くと低い印象をもたれるかもしれませんが1000人に1人です。結構高率です。
鶏のたたきは料理としてお店のメニューにある
先日クリニックの食事会で行った、とあるお店でのことです。コース料理の一品として鶏のたたきがでてきました。それを見たスタッフ一同私の顔をみて、何か言いたげな表情を浮かべながら誰一人として生の鶏には手をつけませんでした。
多くの患者さんがカンピロバクター腸炎で苦しんでいる姿を見て、私が都度、鶏を生で食べないように患者さんに繰り返し指導している効果が、患者さんだけでなく当院スタッフに十分にでているようです。(笑)
とにかく、鶏は十分な加熱です。鶏のたたき、鶏レバーが美味しいのはわかりますが、おいしさの誘惑にまけず、加熱調理です。
まとめ
カンピロバクター食中毒予防のために、鶏肉は十分に加熱しましょう。カンピロバクターの恐い合併症がギランバレー症候群です。
